Artec Space Spiderを利用し、ハイスループット表現型による作物収穫量の最大化を目指す

課題:ある研究者は、「ペレニアルライグラス」もしくは「ホソムギ」と呼ばれるイネ科で多年草の農作物のハイスループット表現型に焦点を当て、植物育種家や農民にとって最も望ましい特性を持つ苗を特定するプロジェクトを手掛けていました。その期間中、彼は6~8回ほど畑内にある160本のホソムギの稲穂を非破壊的に測定する方法を必要としていました。 

ソリューション:Artec Space Spider、Artec Studio、 ImageJ、3D Slicer

結果:Artec Space Spiderを使用して、ホソムギの稲穂1本1本を数分で正確にキャプチャし、それらのサブミリ精度の3Dスキャンを実現することができました。そのことで、研究者達はホソムギの成長サイクルの期間全体とはどのようなものなのかを詳しく観察することができました。スキャンの後、その稲穂の3Dモデルはデジタルの世界で「スケルトン化」され、稲穂ひとつひとつの構造にある地形的な実質がどんなものなのか、正確にそして明らかになりました。

ホソムギの稲穂が開花している様子

私達の世界は食糧が不足してきており、それはどんどん悪化していく一方です。世界の人口は急増しており、2050年までに97億人を超えると予想されています。多くの専門家たちは、安定した量の食料供給を確保し、食料安全保障を可能にするには、食料生産レベルをその2050年までに50〜98%上昇させなければならないと主張しています。しかもそれは、私達が21世紀半ばに近づくにつれ加速している、気候変動の予測できない影響を考慮しなくてもの話です。

世界中の農民たちは、減少していく土地で今まで以上に多くの作物を栽培するという、困難な課題に直面しています。持続可能な作物の収穫量を確保するために、干ばつや洪水、疫病、そして植物病害をどうにか乗り越え、その課題に立ち向かわなくてはならないのです。

世界中で何億人もの人々が毎晩空腹で寝ていることを考慮すると、私達は今現在の食料安全保障のニーズですら、満たすことができていないのです。世界の専門家達が同意すること‐それは、この非常に難関な問題を解くには、農業で大きな革新が必要になるということです。

古代のルーツを持つ、最新のテクノロジー

このような困難な状況の中で、作物の収穫量を増加させるための最先端のイノベーションの1つに、ハイスループット表現型検査(HTP)のプロセスが挙げられます。表現型とは、簡単に言えば特定の苗を観察と分析をして、それからそれぞれの苗に見られる特性に基づいてものごとの決定や予測を行う行為のことです。これは、農民が1万年以上にわたってこれまで行ってきたことです。

小麦を手にした古代エジプトの司祭、ホルス神殿。およそ紀元前2世紀頃

彼らは自分達の畑を歩きながら、最も望ましい特性を持つ苗を注意深く選択し、そこから将来の植え付けのために種子を収集していました。まだ立っている状態の作物からは種子を剥ぎ取っていましたが、既に苗から離れ、粉々に砕け、地面に落ちた種子には手をつけませんでした。虫害などの衰弱の兆候がある苗にも、見向きはしませんでした。

このプロセスを何千回も、何世代にもわたって繰り返すことで、ほとんどの場合は頑丈で栄養価の高い作物が生まれ、現在では世界中の何十億もの人々がそれを食することができています。現在、人間が接種するカロリーの約75%はたった12種類の主要作物からなので、まず初めにこれらの苗に焦点を当てれば、人類の高まる食糧需要を満たす可能性が最も高くなると言えます。

「ハイスループット」と表現型を組み合わせると、これがさらに興味深い話になります。本質的には、その2つを組み合わせ、様々な非破壊的なツールと技術を使用することで、苗のデータ収集と分析の精度を迅速に高めることになるのです。表現型の昔からの伝統的な方法では、苗を切って、分析のために研究室に持ち帰る必要がありました。研究室にその苗が届くと、熱心に研究され、その複雑な物理的特性が定規とキャリパーで測定されていました。

業界全体の問題を解決するための緊急追跡

手作業で測定する面倒な方法は何十年も前から業界の標準ですが、技術の進歩により、ハイスループット表現型が登場しました。  苗から非破壊的にデータを収集するための、より速くそして正確な方法であるハイスループットの大きな可能性に気がついた研究者の一人とは、米国宇宙軍の少佐である、トラヴィス・タブス(Travis Tubbs)氏でした。オレゴン州立大学で行ったホソムギについての研究中に、タブス氏は古い従来の方法に比べてわずかな時間で何百本もの苗を正確に分析する方法が必要であることに気がつきました。

ホソムギ(ペレニアルライグラス)の図

ホソムギは、最も需要が高く、涼しい季節に最も適応性のある草作物であり、多くの国で家畜の餌として使用されています。オレゴン州だけでも、2019年に3億6000万ポンドのホソムギの種子が収穫され、その種子の売り上げは1億8600万ドルを超えました。それでも、毎年そこで栽培されているホソムギの20%以上は、種子が時期尚早に苗から切り離されて発生する初期の種子の粉砕のために、取り返しがつかないほど失われています。

この粉砕とは多くの苗に共通する特徴で、適切な時期に粉砕すると種子が分散し、最終的には次世代の植物になります。

オレゴン州立大学のハイスロップ・クロップ・サイエンス研究所にあるホソムギ

タブス氏によれば、「どのホソムギのファミリー系統が時期尚早の種子の粉砕が起こりにくいのか、ということを正確に知るためには、何百もの苗の小穂を分析して、種子をどれだけしっかりと保持しているか、そしてその高さと長さを測定する必要があります。古い手動での測定方法でこれを同じことを行おうとすると、たくさんの枯れた苗を取り扱わなければならなくなりますし、それぞれの成長サイクルがある短い時間枠で、そんな量の小穂を正確に測定することはできません」

3Dスキャンの採用が考慮され始めたとき

写真測量やそれと同様の高速データキャプチャの方法を調査した後、タブス氏はその畑で使用するために、いっそ独自の3Dスキャナを設計してしまおうかなという気になっていました。しかしその時でした。彼はArtec 3Dのウェブサイトにアクセスし、長年研究者達に愛用されているプロのハンドヘルド3DスキャナであるArtec Space Spiderを発見したのです。彼はすぐに地元の販売代理店に連絡し、直接実演を見せてくれるように手配をしました。

Artec Space Spider

Artecゴールド認定の販売代理店である Digital Scan 3Dの リッチマン・シアンシンビ(Richman Siansimbi)氏はタブス氏と出会い、Space Spiderを使用してホソムギの苗のサンプルを共にスキャンしてみました。その日の午後にタブス氏は、Space Spiderのサブミリ級のスキャンが彼が行おうとしている分析に十分な詳細を提供してくれるはずだと確信しただけでなく、シアンシンビ氏の助けを借りて、ホソムギの苗を簡単にスキャンするための再現可能なワークフローも考案しました。ちなみにそのワークフローは、今現在でもタブス氏が利用しているものです。

そのためには、タブス氏はただ畑に出て、スキャナでキャプチャしたい小穂のある苗を見つけるだけで良いのです。それから彼はその苗の上部を注意深く地面まで折り曲げ、スキャンに使用される背景に向かってそれを静止させます。もともとこれは紫色のゴム製のエクササイズバンドでした。 それはスキャンプロセスの最中に地面に平らに置いてもそのままそこにあるほど十分な幅と柔軟性がありました。ホソムギ1本の苗をスキャンするには、1分もかかりませんでした。

ホソムギの稲穂をSpace Spiderでスキャンしたものを表示する、Artec Studio15のスクリーンショット

タブス氏はさらなる実験と、Artecのウェブサイトでのオンラインヘルプを利用した後、背景にするならば、色がはっきりとした白と黒のボードがArtec Studioソフトウェアでのスキャン処理をより簡単にしてくれることを発見しました。  しかし、もっと便利な解決策を探している研究者達には、タブス氏は新聞紙を使用することをお勧めします。風が吹いている場合に新聞紙の端に重りを置いておきさえすれば、新聞紙でも十分上手くいくからです。

テクノロジーの並外れた精度を証明する

Artec Space Spiderの精度を科学的に確認するために、タブス氏は既定の測定値を定規で取り、Nikon D5000 DSLRのカメラを使用して写真を撮りました。次に、ImageJソフトウェアを使用してその写真を処理し、長さ20 cmの定規で1センチメートル(cm)ごとに印を付けました。そしてこのプロセスはスキャンされたモデルごとに毎回繰り返されました。

上:1cmずつ測定した3DのArtec Space Spiderスキャン下:ImageJソフトウェアで測定されたNikon D5000の2D画像

2D画像測定の精度と3DのArtec Space Spiderスキャンの精度を比較するグラフ

それからタブス氏は両方の測定値をグラフ化し、2つのキャプチャ方法の精度を視覚化させました。このプロセスは、両方の測定形式が忠実度の高いホソムギの稲穂を正確に測定したことを示しています。この2D写真の測定には±1.72mmの誤差があります。一方で、Space Spiderスキャンには±0.09mmの誤差があります。 この2つの方法の精度のわずかな違いは統計的に見ると重要ではありませんが(P値=0.92)、それでも機器の精度を検証するのに役立ちます。

暗闇の中でホソムギの稲穂を3Dスキャン

このプロジェクトの2年間を通して、彼がスキャンを行う日には、タブス氏は決まって日の出前にオレゴン州立大学のハイスロップ・クロップ・サイエンス研究所へ車で向かい、スキャンを開始しました。その数時間後には、彼は夜に再びそれを開始するまで一旦止めます。Artec Space Spiderの独自のキャプチャ方法のおかげで、周囲の光が最小限であった夜中でさえも、タブス氏は作業をすることができました。トータルで、タブス氏は640本にも及ぶホソムギの苗を管理していました。

USDAが提供する40種類のホソムギの種子の起源を示すGoogleマップの画像

これらの苗は、USDAが世界中にある40の異なる場所、例えばアイルランド、デンマーク、ベルギー、オランダ、ギリシャ、アルジェリア、ニュージーランド、米国などの遠く広い国から収集した種子に由来しています。タブス氏はそれらの元の40個の種子から育て、そこから遺伝的な「家族」のグループから最も代表的な4つを選択しました。その結果、160本の苗が「繰り返される」ことになりました。これらの160本の苗は、環境に影響される変数を分析から取り除くために4回もクローン化され、広い畑にランダムに植えられました。

タブス氏は、1つの複製のみ、もしくは640本の苗全体の4分の1だけをスキャンしました。この小さな複製により、タブス氏はプロジェクトの期間中にそれぞれの苗を6〜8回スキャンして分析することができました。Space Spiderを使用したこれらの約800回の高解像度3Dスキャンにより、タブス氏は、種子が粉々になりにくい苗とその理由に関する膨大な量の正確で簡潔なデータを得ることができました。

ホソムギの稲穂のSpace Spiderスキャンをエックス線モードで表示するArtec Studio15のスクリーンショット

タブス氏は、彼のスキャンプロセスを時系列で要約し、こう言います。「各スキャンの前に、稲穂にマークを付け、1週間後にまたそこに戻り、同じ稲穂を再度キャプチャしました。このプロセスを3~4回繰り返した後、これが稲穂1本1本で、そのすべての小穂が始めはどんな状態であったか、そして今はどんな状態かを自信を持って言うことができるのです。最初から最後まで、稲穂1本1本のすべての構造全体に起こる有機的な成長を正確に測定できます」

タブス氏は続けます。「従来の表現型の方法では、稲穂の成長サイクルをはっきりと確認することはできません。それを測定するためには、稲穂を破壊しなければなりません。そして、一度それを破壊してしまったら、それがどのように成長し、明日、翌日、もしくは来週にどのような状態になるか分かりません。

正確なハイスループット表現型のためのSpace Spider

Space Spiderスキャンとともに、タブス氏はすべての不規則な表面とジオメトリにわたって正確な測定値を使用して、1ミリメートル未満までのすべての小穂を定量化することができます。これには、小穂ひとつひとつの種子の塊の完全な構造的特徴と、それらの多数の角度と側面、そして器官脱離帯(種子が稲穂から分離するところ)が含まれます。これらはすべて、稲穂1本1本にある特別な表現型を解釈する上で重要です。

ホソムギの小穂

彼がSpace Spiderでキャプチャした、膨大な量の厳密に正確なデータとは対照的に、タブス氏は表現型の古い従来の方法を振り返り、こう言いました。「昔なら、測定にはランダムに選択した30~40本の稲穂のサンプルを使用するでしょう。そして、それらのランダムに選択されたサンプルは、小規模ではありますが、全体像を表していると研究者達は主張するでしょうね。研究者らがその従来の方法を使用したすべての科学論文を見ると、それは本質的に彼らが今していることが分かります」

タブス氏は分析をさらに追及し、画像分析と科学的視覚化のためのオープンソースのソフトウェアパッケージである3D Slicerに3Dスキャンをエクスポートさせ、ホソムギの稲穂の高解像度モデルを「スケルトン化」させることを開始しました。3D Slicerを使用すると、タブス氏は3Dの稲穂1本1本をデジタルの世界でスライスしてその断面を可視化させ、数千にも及ぶ個別の円形スライスのスタックにします。

 スケルトン化された、ホソムギの稲穂のSpace Spiderスキャン

通常、X線やCT、MRIスキャンに使用されるこの機能は、スケルトン化プロセスの次の段階の原材料をタブス氏に提供してくれます。このようにデジタルの世界でスライスされた3Dの稲穂をImageJソフトウェアに取り込むことにより、タブス氏は数千の稲穂1本1本を構成する、数千のスライスの正確な中心を決定します。

次に、各スライスの中心を1行ずつ次のスライスに接続します。この作業により、1つの連続した、スケルトン化された稲穂が生成されます。タブス氏はこう言います。「これにより、稲穂はその構造の解剖学的に本質である中心部までそのすべての複雑な部分が凝縮されます。それは研究者の私に、小穂の長さや構造などの特性を研究するためにまさに必要なものを提供してくれます。例えば1本の稲穂についてくる小穂の数や、穂軸に沿った小穂間の距離、そして穂軸に対する小穂の角度や小穂のサイズなどです」

優れた耐虫性、耐乾性の穀物、果物、そして野菜

その畑から最も望ましい特性と結果を持つ稲穂が特定されると、これらの特定の稲穂を遺伝子レベルで研究したり、他の稲穂との繁殖と育種に使用することができます。そうすることで、少なくとも何世代かにわたって研究者は優れた農作物だけでなく、米や大麦、小麦からあらゆる種類の果物や野菜に至るまで、様々な品種の他の農作物を生み出すことができます。耐虫性と干ばつ耐性が高く、農薬をほとんどまたは全く必要としない農作物の誕生が可能になるのです。

しかし、タブス氏が言うには、 「これはゴールのないレースです。なぜなら、せっかく私達がより丈夫な農作物を手掛けても、昆虫はその農作物の抵抗を克服するために、それと同じくらい、いえ、それよりもっと早くその抵抗に適応するはずだからです。これは、何百万年もの間、農作物と害虫の間で繰り広げられてきた戦争です。私達は、農作物が生き残り、繁栄していくのに役立つ特性を持つものを選ぶことによって、農作物に有利な状況を生み出そうとしています。ハイスループット表現型とArtec Space Spiderは、他のすべての競争相手の一歩前を常に進むための手伝いをしてくれます」

デジタル収集法を使用したハイスループット表現型を様々な角度から見た比較

それを達成するための効果的なツールの検索は、増え続ける一方です。タブス氏によると「現在の農業では、効果的なハイスループット表現型ソリューションに特化した研究に莫大な金額が投資されています。世界中の研究者らが、世界中のすべての農作物に対してこれを実施する方法を見つけるために、競争が激化しているのが現状です。すべての農業関係者は今それを理解しようとしています」

彼は続けます。「私はと言うと、今はホソムギに焦点を当てています。それが私の地域の基本食料品だからです。しかし、トウモロコシや小麦、その他の穀物や農作物でも同じことが簡単にできます」

このスキャナの直感的な使いやすさについて、タブス氏は次のように述べます。「ホソムギやその他の農作物をキャプチャするために私が使用する技術を学ぶことは、そう難しくありません。私達がかつて参加したことのある会議で、Artec Space Spiderの使用法を人々に教えたこともあります。私が畑にいる際に使用する技術がいくつかあるんですが、他の研究者達とそれらを共有できることをいつも嬉しく思っています」

タブス氏は、自身の持つテクノロジーに対する自信を再確認し、次のように述べています。 「私がArtec Space Spiderを使用して実施しているハイスループット表現型は、これからの農業の未来になることは間違いありません。これにより、農作物の育種家や農家は、当面そして将来の需要に即対応できる速さで、最も望ましい特性を持つ農作物を選択することが可能になります。最新の病気に耐性を持てるようになったり、変化する環境の下で最もよく育つ農産物を生産できるようになったりするわけです。よって、選択的な意思決定を迅速に行うことができれば、将来のニーズに備えることができるということです」