舞台裏を公開:2025年日本国際博覧会向けのルクセンブルク大公宮のキャプチャ
課題:ルクセンブルク大公国の最も繁忙な地域に数えられる領域にそびえ立つ、複数の建物で成り立っている大公宮複合施設を仮想現実・拡張現実への用途に十分な詳細さをもってキャプチャすること。
ソリューション:Artec Ray II、及びAIフォトグラメトリ(Artec Studio)
結果:大阪世界万博でルクセンブルグの歴史をご紹介し、世界中からの訪問者の方の専用アプリでの閲覧のために共有するための驚くほど本物のような、完全な3Dモデル。
なぜ、Artec 3Dなのか:Ray IIは最長百三十メートルの距離から大規模な構造物をスキャンするために、迅速かつ簡単に地盤面に設置できる。AIフォトグラメトリはドローンによる写真、動画のキャプチャをサポートする傍ら、Artec Studioにより、この二つのデータセットは組み合わされ、見事な詳細なモデルが完成する。
世界万博向けにルクセンブルグをデジタル化するよう電話連絡を受けた際、Artec 3D社のサポートチームは喜びにあふれた。 3Dスキャニングをその限界にまで推し進め、自国を世界に知らしめるとは、なんというチャンスであろうか。ただ、最速でもっとも単純明快な手法を見出すこととなったため、障害も若干生じた。
当初、チームは高解像度のArtec Spider IIにより宮殿の砂糖製モデルをデジタル化しようとしたが、非常に本物に近い外観を持った(その上、そのきめ細やかさをSpider IIは見事に表現していた)複製は真の意味での一対一3Dモデルの製作に必要となる、形状面での正確さを持ち合わせていなかった。

ルクセンブルク大公宮の砂糖製モデルをキャプチャするArtec Spider II。
『近道』が功を奏さなかったため、Artec社のチームには大公宮そのものをスキャンするほか選択肢はなかった。その上、この方法により生じる課題もあった。Artec Ray IIは大規模なオブジェクトや空間のキャプチャには非常に優れているが、三脚取付型であるために、その高さからの視野に限界がある。ただ、幸運なことに、Artec Studioにはドローンが利用可能なフォトグラメトリ機能が装備されているのである。
次の課題は繁忙な遺産地周辺でのドローン飛行の実現であり、このことで大公宮の第一参事官(Premier Conseiller)と面会することになったが、参事官は飛行の許可を何とか取り付けた。そして、最後の問題は歩行者である。この人気の観光名所は人々でごった返すことが多いが、3Dデータキャプチャにおいては、ディテールへの妨害、もしくはモーションブラーに繋がる恐れがあるため、これは悪い知らせである。
しかしながら、慎重に二重に行われたスキャン、及びRay II内蔵の視覚慣性システム(Visual Inertial System、VIS)とArtec Studio内の高度なアルゴリズムのおかげで、チームは最終的に没入的な仮想現実への用途に利用できる程リアルな外観を持つ、驚くくらい大規模で、なおかつ詳細な3Dモデルをキャプチャすることができた。
単純明快なスキャニング、類まれなる成果
当プロジェクトを支える3Dスキャニング専門業者の一人であるKeynan Tenenboimによると、Ray IIによるデータキャプチャは、実際にはそれほど難しいものではないそうである。同機器のVISシステムによれば、その3D空間での設置場所の追跡ができるため、後はあらゆる角度からのキャプチャのために同機器の位置を変えていくだけで良くなる。「この分野での私の仕事は基本的にスキャナを様々な場所に移動させ、ボタンを押すことである」と、Tenenboimは話す。「他には、何の技術も要らない。通りすがりのどんな人にも、この業務を任せることができる」
真の難題は、更に大規模なキャプチャのために十分な距離からスキャンすることであった。Ray IIは十メートルの範囲からでも最高で一.九ミリメートルの正確さを得ることができるが、今回の場合、Tenenboimが近づきすぎると、大公宮の建物の一部が他の部分の邪魔になる状態であった。そのために後ろに離れる必要が生じたが、それも建物全体が視野に入るよう約二十メートルの距離まで離れ、この複合施設の周りをぐるりと回る必要がある、ということであった。

ルクセンブルグ大公宮の完成3Dモデル。
TenenboimがRay IIでスキャンする間、仕事仲間であるJerry Kleinは領域の上空でドローンを操縦した。飛行の許可は得ていたものの、これはたやすい作業ではなかった。大公宮は複雑な道路網に囲まれており、如何なる航行の判断ミスもひどい損害に繋がったであろう。しかし、経験の多いパイロットではなかったものの、Kleinは現地全体を完全な形で何とかキャプチャした。
「ドローンを飛行させるのはビデオゲームで遊んでいるようで、特別なことではない。結構、直観で操縦できる」と、Kleinは説明する。「写真をキャプチャする利点は、より忠実な画像を少ないノイズで得ることができるところである。Artec Studioでは動画から3Dモデルを作成することもできるため、今回は念のために画像と動画の両方をキャプチャしておいた。速さの点で動画を、そして比較的再現の難しい部分には画像を利用することができる」
Artec Studio上で異なるデータセットを組み合わせる
Artec Studioは現在、構造化光、レーザー、LiDARスキャナ、及びフォトグラメトリで取得された3Dデータセットのキャプチャ、処理、結合が可能な一体型のツールセットとなっている。3Dスキャンデータと画像や動画を組み合わせるには、まず3Dメッシュを生成する必要がある。前述のRay IIデータのメッシュ生成においては、VISが事前の位置合わせを効率化し、またもや当プロジェクトでの要となった。
「Ray IIのVISシステムは、基本的にすべてのスキャンデータを全自動で位置合わせするため、Artec Studioにデータをアップロードすれば、オブジェクトのすべては仮の位置合わせが既に施された状態となる」と付け加えるのはTenenboimだ。「全く異なる百ものスキャンデータが表示されるのではなく、実際には画面上では一つのオブジェクトが表示される。我々が目指したことの一つは、そのシステムを記録し、それをできる限り維持することであった」

ルクセンブルグの遺跡地『Hollow Tooth(『虫歯』の意)』の外に設置されたArtec Ray II。
AIフォトグラメトリによる3Dメッシュ生成は少し異なるが、それでも優れた成果を挙げることができる。Artec Studioのアルゴリズムでは、画像や動画を調節可能な境界ボックスで『モデルプレビュー』できる。利用するキャプチャデータを指示すれば、このソフトウェアは本物のような3Dモデルを瞬時に生成する上、3Dスキャンデータから作成されたモデルと組み合わせ、更なる規模でも高度な詳細さを得ることも可能である。
Artec Studioでは穴埋め、動いているオブジェクトの除去、テクスチャのマッピング、及びポリゴン数を低減させるためのモデルのデシメーションも可能である。このすべてによって仕上げを施すことができるが、今回のArtec社の3Dスキャニング専門業者の場合、仮想現実での用途のために容量の小さいモデルを作成することは必須であった。
次世代の文化遺跡保全の受け入れ
Ray II、AIフォトグラメトリ、並びにワイヤレス型Artec Leoなどのハンドヘルド機器の併用により、チームは最終的に、この他の史跡もルクセンブルグパビリオン向けにデジタル化することができた。この中には片側が岩壁に面するユネスコ遺跡地である『Hollow Tooth』もあり、ドローンの利用が必要となったが、こちらもデータはRay IIによるスキャンデータと組み合わされ、あらゆる角度からキャプチャされたモデル作成に用いられた。
他の美しくキャプチャされたすべてのモデルと共に、Hollow Toothは現在、同国の歴史をより多くの人々にご紹介する形で、大阪万博アプリ上で閲覧可能となっている。実際のところ、この万博への来訪者の方々は遠距離からアクセスする方々と共に、仮想現実での人気の遺産地をご自身でご見学いただける。

こちらもRay IIとAIフォトグラメトリでキャプチャされた、Hollow Toothの3Dモデル。
Kleinは文化遺産保全においてのみならず、その他の大規模な用途に対し、異なる3Dスキャナとフォトグラメトリによって目を見張るような高度な正確さとキャプチャ規模という、双方の『いいとこ取り』を実現させる本手法に重要な可能性を見出している。
「この手法がハリウッド映画産業からビデオゲーム業界に至るまで、従来は形状よりテクスチャの方を重視していたような分野全般で採用されていることは容易に想像できる」と、Kleinは締めくくる。「3Dスキャンデータとフォトグラメトリ双方を組み合わせることができるため、ジオメトリも上手く、そしてテクスチャも非常に忠実なものを得ることができる。選ぶ必要がないのだから、これは結構、役に立つ」
Artec 3D社は、大阪のルクセンブルグパビリオンでの製作に貢献できたことを光栄に感じている。
ストーリーの背景で活躍するスキャナ
世界最高峰のポータブル3Dスキャナをお試しください。