カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校でのある一学期:Artec Studio Liteを用いての運動学講座の教育
課題:教育現場において次世代を担う運動科学者(exercise scientists)、医療業務従事者に、専用のソフトウェアへの投資をせずにデジタルデザイン技術を教えること。
ソリューション:Artec Studio Lite、スマートフォン、Autodesk Fusion、Meshmixer、Bambu Lab H2S、X1 Carbon、及びP2S による3D印刷
結果:個々の身体構造に合わせて製作された義肢装具、補装具を含む機能的な3D印刷による医療器具、及び将来の職業へ更に一歩近づく用意の出来た生徒たちで一杯となったクラス。
なぜ、Artec 3Dなのか:Artec Studio Liteは、生徒に将来必要なデジタルテクノロジーを実践的に体験する機会を与える魅力的で協調的な学習体験のために、教育現場で容易に、そして同時に利用可能な低価格のフォトグラメトリソフトウェアである。

大学のマスコットである『コヨーテのコーディ(“Cody the Coyote”)』と共にポーズを取るCSUSB 運動学部の生徒。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校(California State University, San Bernardino、CSUSB)運動学部の生徒は、最新鋭の機材を用いた実践的な研究室での実験を通じて人間の動き、運動、健康、及び身体能力をすべて、南カリフォルニアのインランド・エンパイアの中心地で学んでいる。
生体力学から運動生理学に至るまで、当校は理学療法や作業療法における将来的な職業に就くために訓練を受けるには優れた場所となっている。しかし、テクノロジー機器の世界は静止したりせず、既成概念にとらわれない思考が積極的に奨励される学術分野では特に、生理学の新たな分析法が絶えず開発されているのである。
業務用3Dスキャニングは、そのような手法の一つである。Artec Spider IIのような機器であれば、査定や形態の追跡(morphology tracking)、外科計画などのためにデジタル的に人体構造を計測できる。しかし、このテクノロジーは予算の厳しい大学職員がいつでも入手できるようなものではない。

教室で実地試験を行っている運動学部生。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
生徒すべての手にわたるよう教育者が購入可能な低価格の選択肢の一つとなるのが、画像や動画から(スマートフォンでキャプチャされたものまで)本物のような3Dモデルを製作できるソフトウェアであるArtec Studio Liteである。運動学分野でのこのテクノロジーの利用可能性を試す目的で、CSUSBの講師であるキャメロン・ヴァン・ワイ(Cameron Van Wye)は一学期にわたる、他には無いインタラクティブな学習を体験するため、自身のクラスである『KINE2400:運動学でのテクノロジーの導入(Kine 2400 Applications of Technology in Kinesiology )』に登録することにした。
「運動学者として、『遊び(play)』は最高の教育ツールに数えられると考えており、この信念こそが、当コースへの私の心構えを形作っている」と、キャメロンは話す。「講義を基にした学習から離れ、より研究課題を重視した、生徒を中心に据えたような学習形態に移行した。この変更の大きな部分を占めるのが、学習環境への専用3Dソフトウェアの採用である」
「このことは格好いいテクノロジーをただ利用するためではなく、生徒を実際の概念である人体構造、幾何学、そして人体の変化に関与させる手助けをするために行っている」と、キャメロンは付け加える。「一番気に入っているのは、生徒が主体性を持つことにつながる点である。自身の興味に沿って立てた仮説を試し、与えられたツールで思いを表現する。この環境は好奇心をもたらし、学習は五感を伴った、クリエイティブで自主的なものとなる」
教室でのArtec Studio Lite
生徒に当テクノロジーについて把握させるため、キャメロンは教室を基点とする研究課題、そして、より実践的で、ニーズに合わせた適合の可能な医療器具の試作品の3D印刷を含む段階の二部構成に教育課程を分けた。大学はまず、Artec Studio Liteの性能の査定ではなく、当テクノロジーが生徒の学習の促進につながり、身体組成分析を可能とするかを確認するために、その利用可能性の研究から始めた。
この適用を試すため、二十人ものボランティアに対して上腹部、中腹部、腰、及び臀部の従来のGulickテープメジャーでの測定、及びそれに続くフォトグラメトリによるキャプチャが行われた。生徒は最良の成果を挙げるために照明の状態も確認し、当初はArtec Studio Liteに標準装備されているスケールバーを活用し、測定用(すなわち、計測に耐え得る)モデルを完成させた。

フォトグラメトリプロジェクトのために撮影されるボランティア。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
最終的には特定の身体の部位に焦点を絞るため、Autodesk Fusionで設計された3D印刷によるスケールバー、そしてボランティアも身に付けることのできる『偽物のタトゥー(フェイクタトゥー、fake tattooes)』に移行した。興味深いことに、写真は最高品質のカメラとスマートフォンの両方で撮影されたものの、より速く、容易に利用できたのは後者であり、完成データも正確な3Dモデルの生成には十分な品質を持っていた。
従来の方法により得られた測定結果と比較すると、以上のデジタル複製は寸法的に非常に近い値を示し、Artec Studio Liteは応用運動学ツールとして強い潜在能力を示した、と担当班に言わしめた。しかし、おそらく更に重要であったのは、学生の方も当テクノロジーが生体力学分析を個々に学ぶ単刀直入で直観的な手法である、と気付いた点であろう。
「二週間前にクラスが始まる前まで、このようなものの存在さえも知らなかった」と話すのは、キャメロンの講座の生徒であるケイラ・ミラー(Kayla Miller)である。当初は、「『まぁ、良いわね、カッコいいじゃない、義肢装具の3D印刷なんて』とか思っていたけれど、これは本当に衝撃的だった。このようなテクノロジーが出回っているというのは、素晴らしいことだ」

Artec Studio Liteでの3D再現のために補装具をキャプチャする学生。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
「素晴らしいと思う」と付け加えるのは、こちらもキャメロンの生徒であるブリアナ・グリフィン(Brianna Griffin)である。「人体構造を学ぶのは、いつも楽しい。人体構造とものづくりを組み合わせることは、とても良いことだと思う。講座ではキャメロンに課題を与えてもらったが、おかげで視野が大幅に広がって、後でそればかりに夢中になっていた。やっていると、本当に楽しい。学ぶ内容の理解にも役立っている」
個別製作の3D印刷による取付可能な器具
講座の第二部は、人間中心設計(human-centered design)に焦点を当てている。生徒たちはボランティアとの共同作業により、それぞれの生活の質、及びArtec Studio Liteによる3Dモデルを基にした3D印刷によるエンドユース・デバイスの品質を向上させる必要性を特定した。学生は当初は説明に沿って作業を行っていたものの、程なくより自主的になっていき、目を見張るような成果を挙げていた。
短下肢装具(Ankle-foot orthosis、AFO)
ボランティアの一人のため、生徒は短下肢の位置調整、安定性、機能運動性を改善するよう設計された個別製作の下肢支持器具を製作した。生徒たちは残肢の写真をキャプチャした後、Artec Studio Liteの重なった画像の認識、及び人体構造の高正確度での再現に役立つよう皮膚に安全なマーカーを貼り付け、その上で完成したモデルをSTLファイルとしてエクスポートした。

前述の生徒による短下肢装具の試作品。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
生徒はMeshmixerを用いて、自身で生成したメッシュを手作業での計測寸法に対して検証し、微調整を多少施し、下脚部と足の主な支持部位に取り付ける補助的な「殻」を作成することで装具を設計した。以上の外殻は隙間を埋めるよう組み合わされて装具の構造を形成したが、生徒はスマートフォンでキャプチャされたスキャンデータから個別製作の補助器具完成に至る段階すべてを体験し、この研究課題は人体構造のキャプチャから積層造形に至るまでの完全なデジタル的ワークフローの実践例となった。
腕伸展用デバイス
軟骨形成不全症(achondroplasia)などの多くの小人症の症状は、比較的長い骨における変化の生じた成長(altered growth)に起因する不均衡性低身長(disproportionate short stature)、及び四肢短縮症(shortened limbs)に関連している。腕の伸展に関する研究課題の一環として、生徒は補装具を個別製作した。
伸展用、及び荷重伝達ツールとして機能するよう開発された当器具は運動器具に取り付けられ、手首、手、肩を制約された位置に留めておく必要がない。この試作品には個別対応を可能とするため、フック型のハンドルが採用された。

クラスの他の生徒に向けて腕伸展用器具の発表を行う学生。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
今回、担当班はスマートフォンで動画をキャプチャした。画像はArtec Studio Liteで抽出されてモデルへと組み合わされ、Autodesk Fusion上での設計、計測、位置合わせのための参照として利用された。 完成した器具は3D印刷され、複数の運動の動きにわたる性能試験にも滑りや歪曲、破損も生じさせずに無事、合格した。
下肢用義肢装具
この研究課題においては、下肢用の鋳型が回転するプラットフォームに設置され、4Kスマートフォンを用いてデジタル化された。取得データはArtec Studio Liteで処理され、ソケットのデザインの基盤として機能する3Dモデルが完成した。スキャンデータはMeshmixerへインポートされ、仕上げ、編集、洗練化が施され、穴や歪みの確認と共に、肢体の長さ、幅、ソケットの開口サイズ、接続部の計測が行われ、構造的な正確さの維持のために利用された。

学生の下肢用義肢装具の設計の試作品。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
最終成果品となる試作品は肢体の形状、外殻の厚さ、丸くなった端部、感圧性の箇所、快適性、及び構造的支持部を持つよう設計された。担当班は実在の残肢ではなく鋳物を利用したが、この試みの成功は、スキャニング及び器具の製造がより速く、面倒な過程もより少ない形で個別製作を可能とする、従来の鋳造法に対する代替案となることを実証した。
膝対麻痺用歩行装具
膝頭のちょうど上にある骨の多い部位に影響する症状であるオズグッド・シュラッター病( Osgood-Schlatter disease)を患っているボランティアの一人を支援するため、学生らは個別製作の保護器具を製作した。目的は運動をしている間、痛みの起きる突起部そのものへの直の圧力を回避する形で、その箇所を防護することであり、膝の表面の構造の正確な知識を要求される設計課題となった。
Artec Studio Liteを用い、担当班は膝の全面、内側、側面部分辺りがキャプチャされた動画を処理し、デジタル化された解剖学的モデルを生成した。このモデルはその後、器具の想定された大きさ、形状、保護範囲を図解する上張りの実物大模型に利用された。

学生の製作した膝対麻痺用歩行装具の3Dモデル。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
完成した設計品はAutodesk Fusionで作成されたが、影響する部分に空間を作るドーナツ状の苦痛軽減部分、及び外力を周りの組織に流す盛り上がった橋状構造を有している。次なる段階では、学生は発泡性ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(foaming TPU)が更なる衝撃保護性能を追加し、耐久性を向上させるために最適な素材であると特定した。
『スタンプクライミング(Stump climbing)』用器具
最後に、より独創的な学生による研究課題の一つでは、残上肢を持つボランティアのために値段も手頃で活動特異的なクライミング用補助器具が設計された。この学生らは以前、犬用の牽引用ブーツの改造品を即席で作ったことがあったが、小さな割れ目やクライミング現場の表面を掴むことのできるフック状の取付器具を用い、より課題に沿った器具の開発に着手した。

コンピューター画面上でキャプチャされた、前述の学生の補助的クライミング器具。画像は、CSUSBのご厚意で掲載
担当班はトラッキング及び再現の正確性を向上させるために一時的なタトゥーを採用した上で、Artec Studio Lite上でデータ処理を行った。Meshmixerでは手首と肢体の接触する部分が分割され、補助的部分が作成され、クライミング時の『壁』を更にしっかりつかむための指のような形状のフックが追加された。グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PET-G, Glycol-modified PolyEthylene Terephthalate)で印刷された完成器具は、義肢装具を異なる作業やホビー向けに個別製作することが如何に簡単かを実証している。
没入的学習用に認証済
デジタル設計に対するキャメロンの実践的な手法は、生徒に過去の新たなテクノロジーの自分自身の利用経験を超え、実際での問題解決技術を磨いていくように促した。本講座中、生徒らは研究所の状況、検体の位置調整、サーフェスのマーキング、スケールの参照法など、将来生理学を分析する際に必要なすべての事象を最大限に生かす方法を学んだ。
このような新しい技術を習得していく過程において、学生たちは医療分野でその牽引力を増しているもう一つのテクノロジーである3D印刷を用いて、実務での用途に利用される医療器具を設計しただけではなく、低価格で高度な即戦力のあるツールを教育現場にもたらす手段としてのArtec Studio Liteのようなフォトグラメトリソフトウェアの可能性を実践して見せたのである。
「二〇二六年春学期中に明らかになったことは、全く稀有なことであった。すなわち、週二回、一時間のクラスを単なる講座の域を超えた、はるかに素晴らしいものに昇華させた好奇心、創造性、そして共同研究の融合である。これは、共有体験となった」と、キャメロンは語る。
「そのような瞬間に教育と創造性の境界線が全く消滅し、残ったのは、共に意味のあるものを作り上げたという確信、そして、輝かしい未来。それが、生徒一人一人に刻まれた」