耳介に奇形のある子ども用に3Dインプラントを作成

19/07/2016

英エディンバラの王立こども病院のケン・スチュワート医師は、ARTEC Spider 3Dスキャナを使い、先天的に耳の形成不良で生まれてくるいわゆる「小耳症」の患者さんのために正確に耳の形をキャプチャし、インプラントを設計しています。

毎年、10万人以上の子どもたちが王立こども病院 (別名、「ザ・シック・キッズ」)を訪れます。エディンバラにあるこの病院は、耳の弾性軟骨の先天的奇形に苦しむエリーのような子どもたちを治療しています。医学用語では「小耳症(ミクロティア)」と呼ばれ、このミクロティアという言葉は、「耳の異常な小ささ」を表すラテン語に語源があります。この症状のある患者さんの中には、耳介(耳の外側)が存在しないように見えるぐらいとても小さくなっている人たちがいます。中耳と外耳道の未発達により、小耳症の患者さんの多くは難聴にも苦しんでいます。6千人に1人の割合で小耳症の赤ちゃんが生まれており、スコットランドでは、少なくとも10人の患者さんがエリーと同様の問題を抱えています。この数字は、スコットランドの1年の数字に過ぎません。

王立こども病院の入り口。

カー・クラッパトン臨床看護師がARTEC SpiderとARTEC Studioを使ってエリーの耳のスキャンを撮影中。

幸いなことに、エディンバラはケン・スチュワート医師の故郷で、スチュワート医師は他のさまざまな役職に加え、スコットランド耳再建サービス長も務めています。ここでは、耳の奇形に苦しむ子どもから大人まで、あらゆる患者さんの耳再建手術を行っています。

ナショナル・ヘルスケア・システムの主席医師で、スコットランド耳再建サービス長であるケン・スチュワート医師。ケン・スチュワート医師が患者さんを診察している様子。

長年、スチュワート医師は患者さん1人ひとりに異なる耳介を正確に再現するために、さまざまな方法を試してきました。最も一般的な方法は、患者の肋骨から軟骨を取り、耳の形に彫っていく方法です。ワックスやシリコン、果てはリンゴまで使って、あらゆる方法を実践し、同僚の医師に教えてきました。「耳を作るのが好きなんです。」スチュワート医師は、The Scotsman紙でのインタビューでそう答えています。2014年には、耳の再建術前の手順を合理化するために、3D画像処理ソリューションを試し始めました。スチュワート医師は「利用できるあらゆる技術を総動員して、このワークフローを合理化する必要がありました。王立こども病院の耳再建チームは、新しい技術を見つけようと模索していました。」スチュワート医師が在籍していたロージアン・ナショナル・ヘルスケア・システムでは、既に3D画像処理システムを導入し、義肢を設計したり、健康診断を実施したりしていましたが、彼らは、再建した耳の外観をさらに自然に近づけたいと考えていました。

そこで、スチュワート医師は、ARTECの英国のゴールドパートナーであるPatrick Thorn & Co.社に依頼することにしました。スチュワート医師は、その耳補綴の設計と再設計における長い実績から、ARTECの最先端スキャナが人間の耳を効果的に3Dレンダリングできるかどうかについて懐疑的でした。その疑いを払拭するために、パトリックはさまざまなリプリカのサンプルを作り、ARTECの高解像度画像能力を実証しました。パトリックは隣人とそのお孫さんの耳をスキャンしました。EGSのLeios Elaborationsスキャンソフトウェアを使って画像を微調整し、Roland ARM-10 3Dプリンタを使って3Dプリントしました。そうして出来上がった作品を見て、スチュワート医師とそのチームは、外耳道の構造だけでなく、耳と頭部をつなぐ周辺エリアも正確にキャプチャするのに最適な高解像度3Dスキャナである「ARTEC Spider」が彼らの業務には絶対に必要だという結論に達しました。

Leiosを使用して加えられた変更箇所。

Roland機でプリント前の微調整。

シック・キッズ・フレンズ財団での募金活動に支えられ、王立こども病院はARTEC Spiderを購入しました。ある日の午後にインストールを行い、翌日、実践的なトレーニングを行いました。スチュワート医師は次のように語りました。「耳の再建に3Dスキャンを取り入れるというのは初めての経験です。毎日たくさんの患者さんを診察しなければならないため、チームの誰もがとても忙しい時間の合間を縫って集まりました。トレーニングは完璧と言っていいほど、あっという間に終わりました。パトリックさんのトレーニングとちょっとしたヒントだけで、現在、私共は比較的簡単に、スキャンから3Dプリントまで、一連の動作をおこなっています。出来上がったモデルを滅菌し、再建術の精度を上げるため、アナトミックシアターで修正します。」

ARTEC Spiderをスチュワート医師の耳再建プロセスに取り入れたことで、プロセスは合理化・システム化されました。患者さんとの最初の面談が終わったら、病院に戻り、問題のない方の耳をスキャンします。エリーの場合は、両側小耳症(両方の耳が発症している)であったため、小耳症を患わっていないエリーのお姉さんの耳をスキャンすることにしました。問題のある方の耳を参考のためにスキャンする場合もあります。スキャン中、ARTEC Spiderは耳介の複雑な形状だけではなく、極めて重要な、外耳道へ続く構造も驚くべき精度でキャプチャしました。その後、スキャンしたデータをARTEC Studioにアップロードし、素早く位置合わせやメッシュ化を行い、素晴らしい精度で耳の3Dデジタルモデルを構築しました。

レタッチ段階で、Leiosソフトウェアを使い、耳の表面を確認し、不要な要素があれば、これを削除し、内部オフセットを適用して皮膚の厚さを考慮して調整しました。構造と外観のあらゆる調整を行った後、出来上がったモデルをミラーリングしました。その後、画像を含んだ電子ファイルを共有ドライブでラボラトリに送り、Roland MonoFabプリントソフトウェアで読み込ませ、そこで位置合わせを行いました。最後は「Go」ボタンを押し、3Dプリントがスタートしました。

顎顔面プロテーゼの専門家兼コンサルタントであるジェフ・ミラー氏がRoland MonoFabを使って耳の3Dプリントの準備をしています。

完成したモデル。

約3時間後、再建された耳を3Dプリンタから取り出し、イソプロパノールで洗います。数分間、モデルを硬化させるために、UVランプの下に置きます。その後、滅菌、密閉し、耳再建手術の3Dテンプレートとして使用するために手術室に運びます。

過去40年間、整形外科医は完璧な耳の形を模索し、耳の再建技術はゆっくりと(しかしながら着実に)発展してきました。耳再建技術は、1970年代に肋骨から軟骨を取り出し、組織ベースを耳の再建に使用したことに始まりました。当時、問題のない方の耳に紙を当てトレーシングしたものを参考にして、軟骨を取り出し、これを使って患者さんの耳を作っていました。しかし、このような方法でできた耳の外観は、本物の耳とは程遠いものでした。耳の複雑な形状では正確性が極めて重要です。ARTEC 3Dの高度画像処理ソリューションを使い、スチュワート医師を始めとする外科医は、プロテーゼで使うモデルを本物に近づけるために悪戦苦闘したり、このようにして作ったものを患者さんにインプラントしたりする必要はもうありません。特に、エリーのような子どもの患者さんに完璧ではないものを使う必要はもうないのです。

最近では、スチュワート医師のチームは、ブルーノ・ピアウルト医師やクリス・ウェスト医師が人の脂肪から幹細胞を分離することに成功したエディンバラ大学の再生医療センターと共同研究しています。これらの精製された幹細胞は、10,000個のFDA承認を受けた高分子に対して検査が行われました。ウェスト医師は幹細胞が結合したものを特定しました。その後、高分子表面で軟骨を生成するよう細胞に働きかけることができます。ARTEC 3Dスキャン技術と組織組み換え技術、そして脂肪吸引を組み合わせることで、問題のない方の耳そのものといえるレプリカをカスタムメイドし、これをインプラントすることができるようにすることを目指しています。これが成功すれば、肋骨の軟骨を使う必要はもうなくなるでしょう。

ARTEC Spiderでスキャンしたモデルから作られたエリーの3Dプリントした耳

耳のアップ。

ロージアン・ナショナル・ヘルスケア・システムでの技術やスキルは、日々、向上しており、王立こども病院のスタッフや患者さんは、2017年秋にエディンバラのリトルフランス地区にオープンする予定の専門施設の開設を心待ちにしています。ここでは、3D関連の治療がさらに専門的に行われていくことになっています。

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