Artecのスキャン技術を駆使し、中国の寺院の門を壮大な3Dモデルに変換

課題:装飾模様が彫られた大型の門を狭いスペースの中で3Dスキャンすること

ソリューション:Artec Eva、Artec Space Spider、Artec Studio

結果:神聖な仏教遺跡にあるランドマークの、非常に細かいディテールを持った完璧な3Dモデルは、 複数のハンドヘルド3Dスキャナのコンビネーションによって作成されました

「真珠で遊んでいれば、2匹のドラゴンが空高く舞い上がるだろう」中国人の天才芸術家であり、石工でもあった胡明珠(ふ・みんじゅ)は、中国北部にある五台山の神聖な地域全体で、彼の名前を永遠に不滅にさせてくれる建築を完成させる場面を、そのように思い描いていました。その100年後に、華やかなドラゴンを題材として作られた彼の門は、デジタルの世界でまた復活したのです。果物や花、そして架空の動物と現実の動物の精巧な多層彫刻で装飾されたこの門は、ひとつの保全プロジェクトとして、細部まで3Dモデルで再現されています。

五台山の龍泉寺前の門

ユネスコの世界遺産に登録され、中国国家観光局からも観光地等級が最高級(AAAAA)の観光名所として認められている五台山は、中国の仏教徒にとって神聖な4つの山のうちの最初の山です。五台山は、修道院が5つの平らな峰に建てられ始めた西暦1世紀以来から、国中の何百万人もの巡礼者が敬意を示す場所となっています。

ジオメトリのみのモードでの龍泉寺門を表す初めての3Dモデル

現在、五台山には40を超える寺院があり、その中でも龍泉寺は、伝説と言われる胡明珠(1895-1968)が貢献した、独特の建築様式のおかげで特に目立つ存在となっています。

胡明珠の名声の高まり

学校教師の息子であった胡明珠は、10歳のときに五台山の大工店で見習いとして働き始めました。当時、石工職に加え、彼は書道と絵画に大きな関心を持っていました。勤勉で忍耐強いのに、大胆で自由奔放でもあると評判だった若い胡明珠は、彼の教師と仲間達から賞賛されていました。「弟子が先生を上回ってしまったんだよ」と、彼の師である劉元城はかつて彼についてそう述べていました。

しかし、胡明珠が最初に大規模なプロジェクトで人々の信用を得始めたのは、彼が20代半ばの頃でした。その当時、龍泉寺は今は亡き僧侶である普吉(ぷじ)の聖堂を設計・建設するためのプロジェクトの入札を行っていました。胡明珠は、他にも依頼者がいた中で、自分のプロジェクトを準備し、発表しました。すると、このプロジェクトはお隣の河北省の職人グループによって提案されたものと並んで、競争を上回りました。しかし残念ながら、僧院長との面談の後、胡明珠は若く経験が浅いために断られてしまいました。

一方、河北省のチームは建設を開始させましたが、それが順調に進んでいたとき、なんとプロジェクトの要件が急に変更し、厳しくなってしまいました。その変更とは、聖堂の壁が飾られることになっていた彫刻に関しての、特別な要件でした。しかし、そのプロジェクトを完了させるために必要な、熟練の石工が不足していたので、河北チームはプロジェクトの途中でそれを放棄してしまいました。そこで結局、僧院の修道院長は胡明珠に頼らざると得なくなりました。すると胡明珠は、すぐに才能のある助手達をあちこちから集め、最初のスケッチを洗練し、可能な限り速くプロジェクトを完了させるために自分の助手達に仕事を分散しました。  その聖堂が公開されたとき、誰もが渓流の勢いよく流れる水を特徴とする石細工の美しさに、ただただ驚嘆しました。

門の傑作を作成

1年後、胡明珠は龍泉寺の栄光と重要性を拡大させるために、龍泉寺の玄関に彫刻が施された門を建てるという、次のプロジェクトの入札に勝ちました。芸術家・胡明珠はまず最初に、黄色のワックスで作られたミニチュアの模型を用いて、門のデザインのビジョンを作りあげました。胡明珠は、中国の伝統的な木工パターンに、彼独自の石の彫刻技術を織り交ぜました。まさに、2つの異なる世界からそれぞれ最高なものを組み合わせたわけです。「これは、宝の中の宝だ!」審査員団のうちの1人が、模型を見つめながらそう叫びました。

胡明珠の監督の下、合計50人の職人が6年間を通して精一杯働き続け、1930年の秋にやっと門が完成しました。この建築の驚異的部分は、108段の階段で構成された階段の上にあります。108とは、仏教において神聖な数です。その3つの門は、前面にある4つの柱と背面にある4つの柱で支えられた、4つの正方形の支柱で形成されています。その柱のすべての側面は、ドラゴンの芸術的な素晴らしい表現を特徴としています。その門の丸天井は、細心の注意を払って彫られた花開いた牡丹や熟した柿、伝統的な中国の筆記用の筆、扇子、そして貴重な本などが見どころです。また、20匹以上の石彫りのライオンがさまざまな姿勢で門の中心部にたたずんでいます。その中心にある装飾は仏陀の生涯の場面を描いたもので、その上には「仏陀の光は透けて見える」という知恵の言葉が刻まれた、蓮の花びらの形をした楯があります。

正門の上にある華やかな彫刻

今にも飛びかかってきそうなライオンの姿

スキャンに挑戦

この文化的宝物を後世に保存しておくために、この活気に満ちた、多様で精巧な形をデジタル形式で再構築する必要がありました。

そのためには、2つの要件が設定されました。

  • まず、門にあるそれぞれの要素を最高の精度を保ちながら3Dでレンダリングする必要がありました。最終的な3Dモデルにギャップは許されませんでした。
  • そして第二に、マスター3Dモデルを門を構成する部品に分解して、それぞれひとつずつ調べることができるようにすることが要求されました。

3Dスキャン技術を採用する以外に、この両方の基準を満たしてくれる代用方法はありませんでした。ハンドヘルド3Dスキャナを用いることで、すべての必要な角度から、オブジェクトの表面をセクションごとにキャプチャして、オブジェクトの周りを簡単に移動することができます。

ポータブル3Dスキャンは、Artec3Dのゴールドパートナーである 北京オンロールテクノロジー株式会社のチームが最も得意とするものです。同社は、非常に困難であると言われていた門のスキャンプロジェクトの契約を結んでいました。彼らは、2つのハンドヘルド3Dスキャナを組み合わせて使用することにしました。それは、Artec EvaとArtec Space Spiderの2つです。

Artec Eva は、Space Spiderよりも広い視野と高速のスキャン機能を備えているため、特定の表面積をより速くキャプチャできます。一方でSpace Spiderの長所は、より高い3Dポイント精度(最大0.05 mm)とより高い3D解像度(最大0.1 mm)です。このことから、門の全体的なスキャンを実行するためにEvaが選ばれ、Space Spider がその最も複雑な細かい部分をデジタル化するために使用されることになりました。

3Dモデルの前部の拡大図

この仕事を開始する前に、まずそのターゲットの構造全体が実際に上から下まできちんと3Dスキャンができるのか、確認する必要がありました。門の周りのスペースは非常に限られていたので、通常の建築現場の足場を使用して上部に到達できるようなスペースはありませんでした。それでも、チームは地面からスキャンができなかった領域(特に上からキャプチャする必要のあるひさし)にアクセスするための、安全なはしごのセットを考案しました。

ここで考慮すべきもう1つの要素は、日光でした。標高3,000メートルでは、通常の標高よりも明るく見え、特に門がスムースで磨かれた表面からより強く光が反射されます。このせいで、どちらのスキャナでもオブジェクトのジオメトリとテクスチャを正しくキャプチャすることができなくなる可能性がありました。EvaとSpace Spiderの両方は、収集した3DデータをArtec Studioソフトウェアにストリーミングをし、Artec Studioは、光がオブジェクトの表面に当たってスキャナに跳ね返った際にスキャナが放出する、構造化された光線のすべての小さな歪みを分析することによって、オブジェクトの特徴を再構築するので、日光は重要な要素でした。 通常、シェーディングを使用すれば露出オーバーは回避できますが、この場合、スペースが限られてしまっていることを考慮した上で、このオプションは省略されました。そんな理由から、日光対策として、雲ひとつない日には、日が沈んでからスキャンの一部を実行させなければなりませんでした。

夜にArtec Eva 3Dスキャナで門の一部をキャプチャしている様子

スキャンによって、約500 GBの生データが収集され、労働日で14日間かけて行われました。これは、高性能のスマートフォンで撮影された10万枚の写真に相当するほどのデータ量です。EvaとSpace Spiderのスキャンは相互に互換性があり、Artec Studioで簡単にメッシュ化できます。ソフトウェアのすべてのリリースには、新しい改善がされていて、最も便利な方法でデータ処理やスキャン編集ができるように、常に新しいツールを提供してくれます。

素晴らしい結果

そして1か月後にそのプロジェクトは終了し、その3Dモデルの品質は、顧客を大変驚かせました。五台山の寺院の多くの僧侶やラマ達が、初めて胡明珠のオリジナルの石工の美しさを目にしたときに魅了されたように。

門の3Dモデルの正面図

この門の3Dモデルは多くの次世代達のために保存され、建築家や芸術家、中国学者が五台山に旅をしたことがなくても、研究ができるようになるでしょう。そして同様に、この3Dモデルは教室で表示することもできるので、中国の歴史を教える教師達のための補足資料として機能するでしょう。通常は近くで見ることはできなかった門の上部は、今回高解像度で表示できるようになったことで特に観覧する価値があります。このようにして、歴史上初めて、興味のある人なら誰でもこのランドマークの隅々までをはっきりと観覧できるようになったのは、全て3Dスキャン技術のおかげであると言えるでしょう。